心嚢液貯留、心タンポナーデ

心嚢液貯留、心タンポナーデ

 

緊急ドレナージの適応は、タンポを起こしているかどうか、つまり、『バイタルの悪化や著明な心不全を来しているか』!!!

心嚢液貯留の原因は、

Ⅰ、悪性腫瘍

Ⅱ、甲状腺機能低下

Ⅲ、膠原病

Ⅳ、腎不全

Ⅴ、右心不全

Ⅵ、上行大動脈解離

Ⅶ、原因不明の心膜炎

ウイルス性(コクサッキー、エコー、EB、CMVなど)、細菌性(黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎球菌など。結核も)、マイコプラズマ、真菌、寄生虫

Ⅷ、Inflammatory(炎症性)

心筋梗塞後症候群(Dressler's syndrome)、放射線による心膜炎など

Ⅸ、

尿毒症性心膜炎、薬剤性(プロカインアミド、イソニアジドなど)

中等度以上の心嚢液貯留を認める尿毒症性心外膜炎の治療に際しては, 非侵襲的治療を継続するか, 侵襲的治療が必要かを早期に判断することが重要であり, その基準, すなわち心嚢穿刺およびドレナージの実施の決定には, 1) intensive dialysisにもかかわらず心嚢液貯留が軽減しない時点, および2) 心エコー図所見において右房/右室壁の拡張期陥入, 虚脱像を認めた時点, 以上の2点の重要性が示唆された.

結核性心膜炎の診断は難しく、診断が遅れて心タンポナーデや収縮性心膜炎に至ってしまうこともあります。

感染症甲状腺機能低下症は想起できても膠原病というのは忘れやすいですね。

腫瘍性では肺癌、乳癌、白血病、リンパ腫などの心外膜への転移や浸潤が多く、原発腫瘍の頻度は少ないです。悪性中皮腫も有り。

心嚢水貯留は右心不全徴候の一つであると考えられています。

いろいろ調べても不明な時(おそらく心膜生検までしていないでしょう。またウイルス性心膜炎もどこまで精査したのか不明ですが)は『特発性』と診断されます。統計的にみて約1割~2割はこの範疇に入る可能性があるようです。

ANCA 関連血管炎の心病変合併の頻度は10~15%程度とされており,心外膜炎としての報告は極めて少ない.また,心外膜炎の原因疾患として血管炎・膠原病が関与する頻度は3%と低い.原因の明らかでない心嚢液貯留の場合にANCA 関連血管炎も鑑別疾患のひとつとして念頭に置く必要がある.

悪性腫瘍

◎ 男性では肺がんが、女性では乳がんが最も多い

白血病・Hodgkin病・非Hodgkinリンパ腫などの血液悪性疾患も原因のひとつである

◎ がん患者の最大21%に心嚢液貯留が起こるが、そのうち3分の2は無症状

◎ 心嚢液貯留を伴うがん患者の43%において、最初に検出されたがんの徴候が心嚢液貯留

縦隔の放射線照射

◎ 早発性と晩発性のものとがある

◎ Hodgkin病・乳がん・肺がんへの放射線治療に続発して起こるものが多い

代謝

甲状腺機能低下症(特に粘液水腫による)・慢性腎不全による尿毒症・卵巣過剰刺激症候群など

自己免疫疾患、リウマチ疾患・成人Still病など

薬剤性

◎ プロカインアミド、イソニアジド、ヒドララジンなどによる薬剤誘発性ループスなど3)

感染性

化膿性心膜炎

◎ 起因菌としてS.pneumoniaeやS.aureusが半分以上を占める2)

◎ 43%が胸膜肺疾患を合併という報告がある2)

ウイルス性心膜炎

◎ 原因ウイルスはEnterovirus、特にCoxsackievirusが一番多いが、同定されない場合、特発性心膜炎とされる

◎ 特発性心膜炎の約25%で再発が見られる

結核性心膜炎

◎ 致死率が40%以上にも及ぶ1)

◎ 心嚢液は白血球に富み、ADAが上昇し(>30 U/L)、血性であることが多い。

HIV患者は結核性心膜炎に罹患しやすい

(ヨーロッパやアメリカにおいて、M.Tuberculosisは急性心膜炎の原因の5%にも満たないが、HIV患者やアフリカでは、心疾患における原因の大部分を占める)

また、ほとんどが無症状であるが、HIV感染患者の10~50%に心嚢液貯留が見られ、その場合、感染が進んでいることが多い

◎ 肺結核の1%が心膜炎を合併する

心嚢液貯留を認めたら、上に挙げた“心嚢液貯留をきたす疾患” を念頭において、それぞれの疾患に応じた検査を行う。

心嚢液貯留という所見が、悪性腫瘍などの隠れた重大な疾患を見つけ出すカギになる。また、心嚢液貯留と併せて、患者さんの背景・基礎疾患を考慮することが、“幅のある疾患”と称される、結核HIV感染などの鑑別に役立つ。

若者でも心原性胸痛:急性心外膜炎

若年者でも忘れてはならない心原性の胸痛:急性心外膜炎

いつかまとめようとおもっていました。全訳ではありません。。

 

 

Acute pericarditis:NEJM 2004

 

臨床の問題点

心膜は心嚢腔によって分離された臓側心膜・壁側心膜から構成される。

心嚢腔は15~50mlの麦わら色の液体を含む。

急性心膜炎は単独の疾患あるいは全身性疾患の結果生じる。

死後分析によると心膜炎の発生率は1〜6%だが,生前に診断されるのは入院患者の0.1%だけで、胸痛を訴えるが心筋梗塞のない救急を受診した患者の5%。

心膜炎に起こりうる続発症は、心タンポナーデ、再発性心膜炎、収縮性心膜炎。

戦略とエビデンス

原因

急性心膜炎10人のうち9人は,その原因はウイルス性あるいは特発性。

他に,貫壁性の急性心筋梗塞の後、解離性大動脈瘤、鈍的あるいは鋭的な胸部外傷後、腫瘍の心膜浸潤、胸部の放射線療法後、尿毒症、心臓や他の胸部外科手術後、自己免疫疾患、ある種の薬物摂取の結果として生じたものなど。

評価

心膜摩擦音の聴取あるいは典型的な心電図所見(広範囲なST上昇)のある胸痛が急性心膜炎と診断される。

心膜炎と似た胸痛を引き起こす重要な疾患は、心筋梗塞肺塞栓症

病歴

胸痛は典型的には胸骨後方の痛みで突然発症し、胸膜性、吸気によって悪化。

仰臥位になると胸痛は悪化することが多く、座って前傾姿勢をとると軽減。

心筋梗塞のように、痛みは首、腕あるいは左の肩に放散することあり。

僧帽筋に分布する横隔神経は心膜を横断するため、胸痛が片方もしくは両方の僧帽筋稜まで放散する場合、原因として心膜炎を考える。

身体所見

心膜炎の患者のうち約85%は経過中に心膜摩擦音が聴こえる。

典型的には、摩擦音は高調で引っかくような甲高い音であり、胸骨左縁で呼気終末において,また体を前方に傾けた時に良く聴取される。

摩擦音の強さが分刻みでかわるため、心膜炎を疑った患者は繰り返し聴診すべき。

炎症を起こした臓側心膜と壁側心膜が擦れあうことで引き起こされると思われているが、大量の心嚢液がこれらの表面を分離する場合でも摩擦音は聴こえる。

心嚢液がなくなった時に、摩擦音は消失。

心膜摩擦音は胸膜摩擦音と混同してはならない。

心膜摩擦音は呼吸のサイクルの全体にわたって聞こえるが、胸膜摩擦音は呼吸を止めた場合には聴取されない。

低血圧症、頻脈、静脈圧の上昇、奇脈(吸気時に 10mmHg以上の収縮期圧の減少)は、心タンポナーデを示唆。

奇脈はタンポナーデに特異的ではないがとても感度が高い。

心膜炎の致死的合併症である心タンポナーデは、特発性心膜炎を持った患者の約15%で、また腫瘍性、結核性、化膿性心膜炎の60%で報告されている。

タンポナーデでは、心嚢液の蓄積→心嚢内の圧力↑→拡張期において右心房および右心室の虚脱→心拍出量の減少(心エコー検査によって直ちに評価を)。

38℃を超える発熱は珍しく、その場合は化膿性心外膜炎を考える。

その際、臨床医は分析のために心嚢液の採取を考慮するべきである。

心電図

急性心膜炎患者の12誘導心電図は古典的に広範囲の上向きに凹のST上昇およびPR部位の低下を示す。

心電図異常は4つの時相によって進行する。

(ステージ①):ST上昇およびPR部位の低下

(ステージ②):STとPR部位の正常化

(ステージ③):広範囲のT波の陰転化

(ステージ④):T波の正常化

ステージIの変化は,心膜炎患者の80%以上で観察される。

ST上昇は心筋梗塞の患者にも生じるが、いくつかの特徴によって、これらを鑑別することができる。

心筋梗塞において、ST上昇は多くの場合凹面であるというよりむしろ凸面であり(ドーム形)、また広範囲ではなく限局される。

Q波の形成およびR波電位の低下がしばしば生じ、STが基線に戻る前にT波の陰転化が現われる。

そしてPR部位の低下は珍しい。

房室ブロックまたは心室不整脈は一般的である。

最も信頼できる際立った特徴は、V6誘導におけるT波の高さに対するST上昇の比率かもしれない。

この比率が0.24を超える場合、急性心膜炎存在確立は非常に高い。

胸部X線

胸部X線写真は,主として心膜炎の原因かもしれない縦隔または肺野での異常を除外するために行なわれる。

心拡大は心嚢液貯留(250ml以上)を表す。

血清学的またはその他の検査

様々な検査戦略のコスト有効度を評価するデータは足りない。

白血球数、赤沈およびCRPは急性心膜炎の患者では通常上昇。

著しい白血球数の上昇は、化膿性心膜炎の存在を示唆。

臨床症状によって、追加の検査をオーダーする(抗核抗体、HIV感染の血清検査など)。

抗核抗体およびリウマチ因子を含むルーチンの血清検査によって、患者の10〜15%に心膜炎の原因が判明する。

特発性心膜炎の患者は,恐らくウイルス感染を持っているが、ウイルス培養および抗体滴定は臨床的に有用ではない(ウイルス感染の証拠が集まっても治療方針の変更は生じないため)。

血漿トロポニンは、心膜炎患者の35〜50%で上昇。

トロポニン値は通常診断後1〜2週以内に正常に戻る。

トロポニン値が高くても予後が悪いとはいえないが、高値が遷延する場合(2週間以上)は関連する心筋炎を示唆し予後が悪い。

CPKおよびMB画分は上昇するかもしれないが、多くの場合トロポニンより異常値を示す頻度は少ない。

心臓超音波検査

心嚢液の存在は診断に有用なので、経胸壁心エコー検査は心膜炎が疑わしい患者において推奨される。

タンポナーデの所見を認める場合は心嚢穿刺が必要。

心エコー検査は,心膜炎を示す明白な証拠を持った患者においては不必要で、予後因子の情報としては乏しい。

心嚢液穿刺および生検

化膿性または腫瘍性心膜炎と診断がついているか、それらが疑わしい心タンポナーデの患者には心嚢穿刺の適応がある。

原因不明の少量あるいは中等量の心嚢液貯留では、心嚢穿刺も心膜生検も診断には役立たない。

ルーチンの臨床検査および血液検査での評価後も原因が特定できない急性心膜炎の連続231人の患者において、心嚢穿刺および心膜生検はそれぞれ6%と5%しか診断がつかなかった。

原因不明のタンポナーデ患者では、心嚢穿刺および心膜生検はそれぞれ29%と54%で診断がついた。

心嚢穿刺を行う場合、赤血球数と白血球数、細胞診および中性脂肪など調べるべき(ミルク色と粘度を持った心嚢液は乳糜水を示唆)。

pH、糖、LDH、タンパク濃度はよく測定されるが、心膜炎の原因を特定できることは少ない。

心嚢液は微生物を調べるために顕鏡する必要があり培養もすべき。

PCR法やADA活性高値(30UL以上)は結核菌の識別において有用。

心膜生検は治療にもかかわらずタンポナーデが再発する患者には考慮されるべき検査である。

治療

心膜炎の特定の原因が判明した場合、治療はそれに基づいて行う。

特発性心膜炎の患者のための治療は、胸痛と炎症の軽減に向けられる。

だがそのような治療によって、タンポナーデや収縮性心膜炎の続発あるいは心膜炎の再発を防ぐことはできない。

NSAIDsが治療のメインであり、観察研究では患者の85〜90%で胸痛を和らげるのに有効。

アスピリン(2〜4g/day)、インドメタシン(75〜225mg/day)およびイブプロフェン(1600〜3200mg/day)が最もよく処方されており、副作用の少ないことからイブプロフェンが好まれている。

最近心筋梗塞を発症した患者には,アスピリンが望ましい(NSAIDsの害がでやすいので)。

インドメタシンは冠血流量を減弱するので、冠動脈疾患を持った患者では避けるべきである。

コルヒチン(0.6mgを1曰2回投与)は、単独もしくはイブプロフェンとの併用で急性心膜炎の治療に有効と思われる。

コルヒチンは再発性の心膜炎患者に好んで使用される。

NSAIDs、ステロイド、心嚢穿刺あるいはそれらの併用治療にもかかわらず再発する心膜炎51人の患者の多施設臨床試験では、コルヒチンで治療された患者のうちの7人(14%)だけが経過観察中の1004patient-monthsで再発した。

典型的には、症状は抗炎症治療の開始から数日以内に改善する。

胸痛がNSAIDsによる治療にもかかわらず2週間続く場合、他のNSAIDsに変更するかコルヒチンを併用すべきである。

併用治療にもかかわらず胸痛が続ければ、ステロイドを考慮する。

ステロイドに対する効果不良は投与量が不適当か漸減するのが早過ぎる場合が多い。

低用量のステロイド短期投与後に心膜炎が再発した患者は、高用量のプレドニゾロン治療(1〜1.5mg/Kg/day)を4週間行うことによって、症状が改善することが多い。

プレドニゾロンで急性心膜炎を治療することは,再発の危険を増加させるかもしれないという懸念がある。

観察研究では、ステロイドを初期に投与された患者は、投与されなかった患者より心膜炎が再発する傾向があるよう。

動物実験では、ステロイドがウイルス性に引き起こされた心膜の障害を悪化させたことを示した。

これらのデータから,心膜炎の初期にステロイドのルーチンで投与はしないほうがよい。

ステロイドの全身投与(プレドニゾロン1〜1.5mg/Kg/day)は、膠原病、あるいはNSAIDsとコルヒチンに反応しない症状の強い再発性の心膜炎患者に制限されるべきである。

しかし、非吸収性ステロイド剤の心嚢内への点滴投与は、難治性,再発性心膜炎の症例に非常に有効に思われる。

ほとんどの患者は、急性心膜炎の症状は2週間未満で経過良好である。

少量〜中等量の心嚢液の場合、通常数週間内に解消するため、診断または治療のための入院はほとんど不要。

症状が再発しないか新たな症状が現われなければ、フォローアップ評価は必要ない。

予後不良を示す指標:38℃以上の発熱、亜急性の発症(数週間かけて症状が進行する)、免疫抑制状態、外傷に関連した心膜炎、経口の抗凝固療法、心膜心筋炎(心膜炎に臨床的,血清学的に証明された心筋障害の併発)、多量の心嚢液(幅20mm以上のecho-free space)、心タンポナーデ

心筋炎の血清学的な基準はきちんと定義されていないが、特に1週間以上持続するCPKの上昇に注意。

これらの徴候を1つ以上持った患者は、タンポナーデと化膿性心膜炎から,致死的経過を含む重篤な合併症を併発する危険性が高い。

予後不良の因子がなく、入院せずに治療を受けた253人の患者についての報告では、平均フォローアップ期間39か月間に重大な合併症なし。

アメリカのガイドラインは、心膜炎と診断がついているか、心膜炎が疑わしいすべての患者に心エコー検査を行うように勧めている。

その後の心エコーは、病状が安定していて心嚢液が少量の患者では推奨されない。

心嚢液の再発か収縮性心膜炎の初期が疑われる場合、心エコー検査を行ってもよい。

 

急性心膜炎の診断および治療をガイドするための無作為化試験は不十分である。

特発性心膜炎患者の15〜30%で生じる心膜炎の再発を防ぐ手段について、更なる研究が必要である。

再発性がある場合、心膜切除術の適応がありえるが、症状が改善することはめったにない。

データ上、心膜の物理的侵襲(心膜切除あるいは開窓術)は再発を促進すると示唆している。

ほとんどの患者では、再発性の心膜炎の治療は,主に保存的治療となる。

観察上のデータは、コルヒチン投与が心膜炎の再発に対する最良の予防策であることを示している。

再発性の場合,心嚢液貯留をしばしば伴うが、タンポナーデと収縮性心膜炎はめったに生じない。

したがって、これらの心嚢液はドレナージする必要はない。

 

結語

急性心膜炎を持った患者では、多くの場合原因は特発性かウイルス性。

その診断は、臨床の判定規準(つまり典型的な心電図所見を伴った心膜摩擦音か胸痛)に基づく。

検査は 慣例的に不要である。

心嚢液を分析するための単純な心嚢穿刺は診断情報が得られないことが多く、心タンポナーデ、化膿性、腫瘍性の心膜炎が疑われる患者に行うべき。

38℃以上の発熱、亜急性の発症、免疫抑制状態、外傷の既往、経口抗凝固療法の既往、心膜心筋炎、多量の 心嚢液あるいはタンポナーデを示す証拠を持たなければ、評価および治療は外来通院で行うことができる。

急性心膜炎はNSAIDs単独あるいはコルヒチンとの併用で優れた反応を示し、短期間で良好な経過をたどる。

いくつかの研究によってステロイドの初期投与が再発の危険を増加させる可能性が示唆されており、NSAIDsの複合治療に反応しない心膜炎患者に限り行うべき。