心エコー、BNP、拡張障害
心エコー&BNP 正常値
・LADはBmodeの径が基本。高齢だと、42から異常ととり、45までは軽度拡大とする。
大動脈弁弁輪径 1.4~2.6 cm 弁口面積 3.0~4.0 cm2
僧帽弁弁輪径 2.7~2.9 cm 弁口面積 4.0~6.0 cm2
三尖弁弁輪径 ~3 cm 弁口面積 5.0~6.0 cm2
肺動脈弁輪 1.0~2.2 cm 弁口面積 3.0 cm2 (参考)
主肺動脈径 0.9~2.9 cm
左室流出路径 18-22mm
右心房:ME4Cにて 長径3.5~5.5 cm,短径2.5~4.9 cm
左心房:ME4Cにて 長径3.4~6.1 cm,短径2.5~4.5 cm
心室中隔 1.0cm以下
右心室:ME 4Cにて 長径(拡張期)5.5~9.5 cm,短径(拡張期)2.2~4.4 cm 壁厚0.3~0.5cm
左心室:ME4Cにて 長径(拡張期)6.3~10.3 cm,短径(拡張期)3.5~6.0 cm 壁厚0.6~1.1cm
心膜 心嚢液貯留は<0.5>2.0 cm で重度・asynergyあればLV studyはsimpsonで。Teichholz法意味無し。
・PR 波形はノッチが入っていれば、PCWPは高くないと思う。
・PR PGはPHがあると当てにならない。肺毛細血管床の圧に関与するから。
・吸い込み血流(acceleration flow)があったらmoderate以上と言われるが、すべてがそうとは限らない。
⇐ 大阪労災技師さん曰く。
男性 女性
左室拡張末期径(mm) 48±4 44±3
左室収縮末期径(mm) 30±4 28±3
左室拡張末期容積係数(mL/m2) 53±11 49±11
左室収縮末期容積係数(mL/m2) 19±5 17±5
左室駆出率(%) 64±5 66±5
左室重量係数(g/m2) 76±16 70±14
左房径(mm) 32±4 31±3
左房容積係数(mL/m2) 24±7 25±8
右室拡張末期径(mm) 31±5 28±5
(心尖部四腔断面像で計測)
右室拡張末期面積(cm2) 16±4 13±3
(心尖部四腔断面像で計測)
右室面積変化率(%) 44±13 46±11
(心尖部四腔断面像で計測)
E/E’(中隔) 7.4±2.2 7.9±2.2
E’(中隔,cm/s) 10.0±2.8 10.8±3.2
E/E’(側壁) 5.5±1.8 6.2±1.8
E’(側壁,cm/s) 13.5±3.9 13.7±4.1
Tei index(左室) 0.35±0.10 0.33±0.09
・大動脈弁輪径;19 – 24mm
・僧房弁弁輪径;27 – 29mm
・三尖弁弁輪径;30mm以下
<E/A、DT、E/E´>
・下記は専門医を目指すケースアプローチ循環器疾患の教科書より。
弛緩障害(軽度拡張障害)ではなく、正常ないしは偽正常化のパターン、あるいは拘束型(高度拡張障害)のパターンのいずれかになる場合の時、DcT(>150ms)であれば拘束型パターンは除外され、正常か偽正常化になり、この両者の鑑別に組織ドプラが有用である。拡張早期移動速度e´は左室拡張能の指標として知られ、拡張障害が進行するにつれe´は低下する。教科書的にはe´とa´のバランスが、E波とA波と逆転していれば偽正常化である。本症例ではe´が11cm/sと速く、左室拡張能の低下はないと判断できる。
E/E´は、拡張能はみれない。LA圧を推定するのみ。
E/Aが異常値ということで心事故が多いということは言えるがE/Aにより拡張障害あると断言はできない。
今は、これらの指標でフォローしていくことが大事。
拡張機能障害というのは、例えば左室肥大があり、PCWPが高くて(正常上限でも)、EFが良い場合に、障害有りといえる。
HCMでは基本的に拡張能障害が認められ、パルスドプラ法を用いた僧房弁流入血流速波形では、左室弛緩の延長と心房収縮の相対的亢進を反映し、拡張早期波(E)/心房収縮波(A波)比の低下(<1)とE波の減速時間の延長を伴う左室弛緩障害パターンを呈することが多い。しかしながら、HCMにおける左房圧はE/A比など僧房弁流入血流速波形からは予測困難と報告されており、組織ドプラ法を用いた拡張早期の僧房弁輪速度の評価を行う必要がある。
・EF低下例(虚血心or DCMでEF 40%未満)では、E/AやDTが左房圧と、良好に相関
する。正常;PCWP ; 5 – 13である。
E/A>2 or DT<180ms は、平均左房圧 20mmHg以上。
しかし、E/AやDTによる左房圧推定は、HCM、EF正常例、洞性頻脈例、Af例では除
外すべき。相関しない。しかし、E/E´は、これら疾患でも相関し、適用できる。
E/E´<8 ;左房圧 12未満。
E/E´>15;左房圧 12以上。
・EF低下を伴う基礎心疾患有りの患者で、
E/Aは偽正常型;軽~中等度の左房圧上昇の心不全
E/Aは拘束型;中等度~高度の左房圧上昇の心不全 と診断してよい。また、以前の安定期に記録したTMF(左室流入血流波形)と比べて悪化があれば、診断の妥当性は非常に高くなる。
・肺静脈ドプラーA波持続時間(AR dur) – 僧房弁流入A波の持続時間(A dur) > 0
だと、EDP 18 mmHg以上。これはEF正常例でも適用できる。
・左室拡張障害は以下の4段階(Grade 1 -4 )に分類される(Mayo Clinicの分類)
Grade 1 弛緩異常型(abnormal relaxation) E/A<1, LV-DT>220-240 ms
Grade 2 偽正常型(Pseudonormal) E/A ; 1 – 1.5, LV-DT ; 150 -240 ms
Grade 3 拘束型(可逆性)(Restrictive,reversible) E/A>2, LV-DT <140-150 ms
治療により弛緩異常型に改善
Grade 4 拘束型(非可逆性)(Restrictive,irreversible) E/A>2, LV-DT<140 -150 ms
治療しても弛緩異常型に改善しない
バルサルバ負荷は被検者に息を吸った状態で息止めさせて,胸腔内圧を高める負荷法である.胸腔内圧を高めると右房へ灌流する血流量が減少し,引き続いて徐々に左房へ灌流する血流量が減少する.バルサルバ負荷を行っている間は左房圧が減少していることになり,偽正常化型はバルサルバ負荷によってE/A比が減少するが,正常型では変化しないとされている.
Grade 3は下記の4つに分類される。
Ⅰ、弛緩異常型がうっ血性心不全をきたした場合
Ⅱ、重症僧房弁逆流
Ⅲ、弛緩異常型からさらに左室が硬くなった場合や拘束型心筋症
Ⅳ、収縮性心膜炎や心タンポナーデにより左室の拡張が妨げられた場合
・sever MRでは、左房圧上昇し、上記となる。
・
<兵庫医科大学 内科学 循環器内科 教授 増山 理>
慢性心不全とは,心機能の低下を引き金とした神経体液性因子の活性化などの悪循環により心不全症状を引き起こした病態である。なかでも最近は拡張不全が注目されている。
心エコー図による左室駆出率,左室拡大の評価は収縮不全の指標として非常に有用であるが,拡張不全の病態評価にはまったく役に立たない。そこで,収縮不全と拡張不全の両方の病態評価に役立つ指標として最近,左室流入動態が注目されている。正常な左室流入動態はE波とA波の二峰性の波形が記録されるが,虚血心,肥大心などなんらかの病変が心臓に起こると,通常E波が小さくなりA波が大きくなる。そして病変の進行に伴い次第に充満圧が上昇し,心不全になる。心不全になるとE波が大きくなり,さらに充満圧が上昇するとE波が非常に大きくなり,A波が小さくなる。たとえば心不全患者にβ遮断薬carvedilolを投与し改善すると,拘束型波形が偽正常化もしくは左室弛緩遅延波形に変化することがわかっている。
したがって左室流入動態の評価は,拘束型波形もしくは偽正常化波形を示す疾患で心不全の予後が不良であることがわかり,治療にも用いることができるという点で非常に意義がある。
<拡張不全で鑑別されるべき偽正常化波形>
2003年,米国メイヨークリニックのRedfieldらが分類した左室拡張障害の波形を図2に示す 1)。現在,正常波形と偽正常化波形は単に波形の特徴からだけでは判別できない。したがって左室流入動態を心不全の診断もしくは薬効評価に用いる場合,正常波形か偽正常化波形かを的確に判断することが非常に重要となる。2001年のGandhiらの報告では,拡張期心不全のE/A比が1.31程度であることから考えても,拡張期心不全では多くの症例が偽正常化波形であることが推測される 2)。
当科の収縮不全と拡張不全において左室拡張障害程度を調べたところ,収縮不全の53%はE/A比が非常に高く(拘束型波形),一見して心不全とわかったが,47%は偽正常化波形であった。ところが拡張不全では79%が偽正常化波形で,拘束型を呈する症例は17%しかいなかった。したがって,拡張不全で特に偽正常化波形を判別する必要がある。
→→ ・収縮不全の心不全時;53%(拘束型波形)、47%(偽正常化波形)
・拡張不全の心不全時;17%(拘束型波形)、79%(偽正常化波形)
<偽正常化波形の検出方法>
まず,正常波形を見たときに異常ではないかと疑うことが重要である。たとえば15年来高血圧症がある45歳男性で,明瞭な左室肥大があり,左室駆出率58%ではあるが心不全が疑われた症例があった。左室流入血流速波形で求めたE/A比が1.7で,年齢を考慮するとほぼ正常の波形であった。この症例の左室流入血流速波形が偽正常化波形であるかを鑑別する方法は3つある。1つ目は,Valsalva法により左室流入ドプラ血流速波形が変化するかどうかをみる方法である。E波が小さくなりA波が高くなるのが偽正常化波形の特徴のひとつである。E/A比が0.5以上低下するような症例は偽正常化波形と診断するべきであると,ここ数年言われている。
2つ目は,組織ドプラ法による僧帽弁輪部移動速度の測定である。正常例では左室流入血流速波形,組織ドプラ僧帽弁輪部速度波形ともにE波が高くA波が低い。一方,偽正常化波形例では,左室流入のEとAは正常例とほとんど同じであるが,組織ドプラ僧帽弁輪部速度波形で求めたE’は低下している。したがってEとE’の比を求めることにより偽正常化波形が判別できる。すなわち左室流入血流速波形のE波は病気になるほど小さくなるが,心不全が進むとそれが正常化してさらに大きくなるという,いわゆる2方向性の変化を取る。正常例ではE/E’<8であるのに対し,E/E’≧15であれば,左室拡張末期圧が上昇した心不全と診断できる。なお8~15の間の場合は,これのみでは診断できない。
3つ目は,連続波ドプラ法(三尖弁逆流・肺動脈弁逆流血流速計測)で肺動脈圧を推定する方法である。心不全になると,肺静脈圧さらには肺動脈拡張期圧が上昇し,同時に肺動脈収縮期圧も上昇する。左室流入E/A比では収縮不全例の約50%,拡張不全例の約80%が診断できなかったが,収縮不全例の約59%,拡張不全例の77%で流速増大すなわち肺動脈圧の上昇が認められた。したがって,この連続波ドプラ法を併用することで,左室流入血流速波形が正常か偽正常かが判断できると考える。ただし約20%の症例で三尖弁逆流の信号を検出できず,これは本手法の最大の限界である。また,肺動脈圧が高いからといって,すぐに心不全といえるとは限らないため,その点は今後のさらなる検討が必要である。
左室流入血流速波形が偽正常化波形である場合,拡張不全では重症を意味する。偽正常化波形が疑われる場合,Valsalva法または組織ドプラ法による僧帽弁輪部移動速度を参照するか,もしくは連続波ドプラ法による肺動脈圧推定が役に立つ。最も重要なのは「偽正常化波形かもしれない」と疑うことである。E/E’≧15である場合,その症例は心不全であるか,もしくは予後があまりよい状態ではないと考えられる。たとえばβ遮断薬を導入する,または増量する必要があろう。もしくはさらに積極的な治療が必要と考えるべきである。
<NYHAとBNP>
BNP ; 正常20 pg/ml以下
NYHA 1度 → BNP 20 – 50
心疾患があるが症状は無い。
NYHA 2度 → BNP 50 – 100
安静時は症状無いが、活動時に症状があるもの。
NYHA 3度 → BNP 100 – 200
安静時は症状無いが、活動時には強く症状が出て日常生活が厳しく制
限される。
NYHA 4度 → BNP 200 – 300
軽度の活動でも症状が出て、安静時で心疾患発作の危険性がある。
・NT-proBNPはBNPより腎機能の影響を受けやすい。
・経験的に、BNP ;50、NT-proBNP;500から心不全の状態を疑い、BNP;100-200、
NT-proBNP;1000くらいから急性心不全の可能性を考える。
BNP > 400、NT-proBNP>2000 ; 心不全の可能性高い。
BNP < 100、NT-proBNP<400 ; 心不全の可能性低い。
・急性心不全を生じると心筋障害を生じて、心筋が一部不可逆的にダメージを受ける。よ
って、①急性心不全を生じさせないこと、②急性心不全になればただちに血行動態の改善を図ることが心筋障害を最低限に抑える方法と考えられている。
スーパーノーマル
左室拡張能の評価に,僧帽弁口血流速波形(左室流入血流速波形)が頻用されている.同波形は,拡張早期波(E)と心房収縮期波(A)で構成される.若年者ではE波高がA波高より大であるが,55~60歳くらいで同じくらいになり,高齢者ではE波高よりもA波高が大であるのが一般的である.
この加齢による血流パターンの変化のメカニズムは,2つの相反する報告がある.一つは,左室心筋の性状が加齢により変化し,左室の弛緩能が低下するためにE波が低下し,そのために拡張早期に左室に流入できなかった血液が左房に残存するため,ストレッチされた左房が心房収縮期に血液を押し出すためにA波が増高するという説である.これに対して,左室圧から左室弛緩能の指標であるtauは加齢で延長しない,という観察結果をもとに,左室の弛緩能が加齢で低下するのではなく,加齢による体液量の低下に伴い前負荷が減少するためにE波が低下するのだろうという報告もある.
ところが,70歳台でほかに器質的心疾患がないのに,E>Aである患者さんをしばしば経験する.これはなぜか?
まず考えておかなければならないのは,“偽正常化パターン”でないかどうかである.いわゆる“収縮能(EF)が保たれた拡張不全型心不全“かどうかを確認する.これには,肺静脈血流速波形,僧帽弁輪運動速波形,肺動脈弁逆流などを検討して,ほかに左室拡張末期圧の上昇を示唆する所見がないかチェックしないといけない.また,三尖弁逆流血流速波形や下大静脈を観察して,続発性肺高血圧の有無も有用な情報となる.
拡張型心不全がないことが確認できたら,次は左房の収縮能が低下して,左房圧が上昇している状態でないかを疑う.検査時は洞調律でも,発作性の心房粗動,細動や上室性不整脈が最近起こっていた場合,一過性に左房収縮能が低下していることがある.これを左房スタニングという.あるいは,滅多にいないが,心アミロイドーシスやサルコイドーシス,多発性筋炎などで左房心筋のみに心筋病変が出現する場合があり,このような器質的左房機能低下も考えておかないといけない.この場合,左房の拡大を伴うことが多い.
僧帽弁輪石灰化(MAC)のために,僧帽弁狭窄とはいえないまでも,弁口面積が小さくなってE波が増高し,E>Aとなることがある.この場合,E波の減速時間が延長している場合が多い.心尖部からの弔辞気宇断面で左室後壁側の僧帽弁輪のエコー輝度が上昇している場合は,MACがないかどうか,短軸断面で確認する必要がある.一カ所に限局したスポッティーなMACが弁口面積に影響することはまずないが,ある程度(弁輪周囲の1/3程度)以上のMACがあれば,弁の開放に影響している可能性がある.
また,心臓の外から左房が圧排されると左房圧が上昇し,E>Aとなることがある.食道がん,大動脈瘤などが左房を圧排するので,一応念頭に置いて,視野深度を少し深くして観察しておくことも大切である.
以上のように調べてきても,まだ理由がつかない場合,年齢に比して左室弛緩能が正常に保たれている,“スーパーノーマル”を考えざるを得ない.
スーパーノーマルが存在するかどうか,今後も検討が必要である.