肺塞栓、深部静脈血栓症 新ガイドライン2018.3発表

https://www.m3.com/open/overseasAcademy/report/article/10659/から引用

 

 

 

2018年3月23日,「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版)」1)が公表された。2004年の初版発表後,2009年に1回目の改訂(旧版)が行われ,今回が2回目の改訂となる。旧版の構成から大きく変更され,2017年改訂版では「急性肺血栓塞栓症(PTE)」,「慢性PTE」,「深部静脈血栓症(DVT)」,「静脈血栓塞栓症(VTE)の予防」に分け,それぞれについて診断・治療,あるいは予防法について記載。さらに,各項目の最初に推奨クラスならびにエビデンスレベルが示された。

ここでは,山田典一氏(桑名市総合医療センター桑名東医療センター副病院長)より発表されたおもな改訂点を中心に紹介する。

  • Xa阻害薬が新たに使用可能となり,PTEの治療は大きく変化

抗凝固療法の継続期間は旧版と大きく変わっていない。危険因子が可逆的である場合には3ヵ月間,誘因のない(特発性の)VTEでは少なくとも3ヵ月間の投与(クラスI,レベルA),再発例および癌患者では,より長期間の投与とされた(クラスI,レベルBおよびクラスIIa,レベルB)。なお,先天性凝固異常症については,個々の素因によってリスクも異なることから,画一的な期間の記載は削除された。

  • 急性PTEに対する血栓溶解療法の適応は広範型PTEに限定

旧版ではショックや低血圧が遷延する血行動態不安定例,さらに正常血圧であるが右室機能不全ならびに心臓バイオマーカー陽性例に血栓溶解療法が推奨されていたが, 後者の正常血圧であるが、、、、に関し,2017年改訂版では非経口薬による抗凝固療法が第一選択と位置付けられた(クラスIIa,レベルB)。★急性肺塞栓の診断が確実にされて、血行動態が不安定な重症例のみに適応(低酸素血症や右心不全がある場合)。軽症例で行うと出血の副作用のほうが出てトータルで考えると不利益が大きい。モンテプラーゼ(クリアクター)の使い方について説明します。モンテプラーゼは半減期が長くワンショットで使用可能です。27,500IU/kgを80,000IU/mlとなるように生理食塩水で溶解して10ml/分で投与します。クリアクター(40万IU,80万IU,160万IU)をそれぞれ5ml、10mlまたは20mlに溶解します。→★つまり、当院では80万IUが採用されているので、2V(160 IU)をオーダーしそれを20ml NSで溶解し、体重50㎏ならおよそ140万IU(137万5000IU)であり、17mlを2分間で投与します。クリアクター投与6時間後からヘパリンを開始し、凝固系や血小板凝集能のリバウンドに備えます。

  • 下大静脈フィルターの適応が限定され,フィルター回収の重要性にも言及

わが国では過剰使用が指摘されている下大静脈フィルターについて,2017年改訂版ではその適応が限定された。具体的には,抗凝固療法を行うことができないVTE(ただし,末梢型DVTでは中枢への伸展例に限る;クラスI,レベルC),十分な抗凝固療法中のPTE増悪・再発例(クラスIIa,レベルC),抗凝固療法が可能でも,残存血栓の再度の塞栓化により致死的となりうるPTE(クラスIIa,レベルC)などに限定された。

また,回収可能型下大静脈フィルターは長期留置による合併症のリスクがあることから,必要性がなくなった場合は早期に抜去を行うことへの言及が加わった(クラスI,レベルC)。

  • 慢性PTEに対する新たな薬物治療や経皮的バルーン肺動脈形成術の推奨

慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は,器質化した慢性PTEにより肺血管抵抗が上昇し,肺高血圧となった病態で,2015年にはわが国でも指定難病として認定されている。近年は,肺血管拡張薬リオシグアトの登場や,カテーテル治療による有効性の確立など治療法が大きく変化したことを受け,今回,改訂が加えられた。外科的治療不適応または外科的治療後に残存・再発したCTEPHに対し,肺血管拡張薬リオシグアトによる内科的治療を第一選択とし(クラスI,レベルB),肺動脈内膜摘除術の適応とならない症例に対し経皮的バルーン肺動脈形成術を行うこと(クラスI,レベルC)が記載された。

なお,本ガイドラインの改訂と同時期に「肺高血圧症治療ガイドライン」の改訂作業が進行していたことから,CTEPHの治療に関する内容については内容の統一も図られた。

  • DVT治療もPTEと同様,経口Xa阻害薬の登場により治療戦略が大きく変化

中枢型であればPTEと同様に初期治療期,維持治療期に非経口抗凝固薬あるいはXa阻害薬を投与(クラスI,レベルA)とされたが,末梢型であれば画一的に抗凝固療法を施行することはせず(クラスI,レベルB),施行する場合は3ヵ月までとする(クラスI,レベルC)。

なお,アスピリンのDVT再発予防効果は,抗凝固療法よりは劣るものの,プラセボとの比較では一定の効果が認められている。そのため,誘因のないDVTの抗凝固療法中止後,抗凝固療法の延長を希望しない,または可能でない場合,推奨クラスは低いものの,DVT再発予防としてのアスピリン投与が追加された(クラスIIb,レベルB)。

また,DVTの理学療法として,初期治療において抗凝固療法が行えた場合,ベッド上安静よりも早期歩行が推奨された(クラスIIa,レベルB)。旧版ではDVT治療や血栓後症候群(PTS)予防のための弾性ストッキング着用がクラスⅠで推奨されていたが,最近の大規模無作為化試験の結果を受け,PTS予防のために画一的に弾性ストッキングの着用を長期間継続させることは推奨されないとした(クラスIII,レベルB)。

  • VTE予防に使用可能な抗凝固薬が追加

VTEの予防においては,整形外科手術後に限って,Xa阻害薬エドキサバン(リクシアナ)が保険適用されたことが追加された。整形外科領域のみであるが,Xa阻害薬のエド キサバンはTKA後,THA後,HFS後のVTE予防に保険 適用されている.臨床試験結果では30 mgを1日1回経口 投与した場合,TKA術後の無症候性 DVTは出血性合併 症発症率を上昇させずに48.3%から12.5%へ低下した. 投与方法は手術後12時間を経過し,出血がないことを確 認してから1日1回30 mgを11~14日間経口投与する.本 剤を15日間以上投与した場合の有効性および安全性は検 討されていない.なお,高度の腎機能障害(クレアチニンリアランス:Ccr<30 mL/分)患者では禁忌とされ,中 等度(30≦ Ccr<50 mL/分)の例では個々の患者の VTE のリスクおよび出血リスクを評価したうえで,15 mg 1日1 回に減量することを考慮する. 体重40 kg未満,高齢者に おいては出血のリスクが増加する可能性があるため慎重な 投与を考慮する.また,エドキサバンはP糖蛋白阻害作用 を有する薬物との相互作用によりバイオアベイラビリティ が上昇し,出血リスクを増大させる可能があるため,減量 を考慮する.ダビガトランとP糖蛋白質を阻害するベラパミルやキニジン(硫酸キニジン),アミオダロン(アンカロン1397904493など)を併用した場合,ダビガトランの血中濃度が上昇することが報告されている。ダビガトランの血中濃度に与える影響が大きいと推測されるため,イトラコナゾールの経口製剤は併用禁忌とされている。また,そのほかのP糖蛋白質阻害薬(ベラパミル(ワソラン),アミオダロン,キニジン,タクロリムス,シクロスポリン,リトナビル,ネルフィナビル,サキナビル,クラリスロマイシンなど)の経口製剤も併用注意となっている。これらの併用禁忌・注意薬について,ダビガトランとの併用試験による相互作用の検討結果を以下に示した。

弾性ストッキングについては,旧版ではクラスIで推奨されていたが,一部領域(脳卒中後)のDVTを予防しないことが報告されたため3),2017年改訂版では中リスク患者に対する推奨はIIa,レベルAとされた。

なお,本疾患においてはXa阻害薬などの登場により治療戦略が大きく変化しているものの,残念ながら日本人を対象としたエビデンスは限られている。そのため,海外のガイドラインなどを参考にしつつ,日本人でのデータや現在用いられている標準的な検査法や治療法が反映されたものになっている点にも言及された。